藍青

〜晴れ時々日記〜 SHOがつづる短歌、旅行などなどの日記です。
香川県に住んでいるバイク好きです。愛車ヤマハYZF-R6の話も、書いていきます。
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松村正直 『駅へ』
まだ草津の部屋は仮住まいなので、短歌に関する本も主力部隊は実家に置いてある。そんな中で、
草津に持ってきている歌集もそれなりの数があり、読む機会がある。

草津に住んでからもうすぐ7ヶ月、この間で最も読む頻度が高かった歌集は松村正直の『駅へ』である。
2001年にながらみ書房と言う出版社から発行された著者の第一歌集で、フリーターの出した歌集として
発行当時は歌壇でかなり話題になった。今でこそフリーターの歌集も決して珍しくはないと思うが、
その嚆矢となった歌集である。歌集冒頭の一首

フリーターですと答えてしばらくの間相手の反応を見る

が、歌集前半の著者の歌、そして生き方のスタンスをそのまま表している。

著者は大学を卒業してから岡山、金沢、函館、福島、大分と移り住んで現在は京都に住んでおり、この歌集は
函館以降の歌が収録されている。函館在住当時に、やはり函館に住んだ歌人、石川啄木の本を手に取った
ことが短歌を始めるきっかけになったらしい。「就職しない、定住しない、結婚しない」と言う「3ない」を
実践して、日本各地を転々と移り住んでいた頃の歌が歌集の前半を占め、歌集の最後の方になって結婚に
つながる恋の歌、そして結婚生活の歌が出てくる。

私も当時の彼と似たような環境で今は生きている。当分は草津に住むつもりだけれど、これを「定住」と
呼ぶのかどうか。おそらく現状では「長期一時的居住者」と言った方が正確であろう。身分の不安定さ、
歌と生き方の全ての底流に流れている人間不信、傷つけあうよりはドライな関係を求める心理、そして、
寂しさと自由を手にしながら一人の時間を楽しめる一人上手さは、歌集前半当時の著者の生き方で
あると共に、私の今の生き方そのものでもある。

歌集の中でも、もっとも私がよく口ずさんでいる歌を紹介しよう。

可能性ばかり広がる空っぽの町迷いつつ歩きゆくのみ

別に今住んでいる草津の街が空っぽの町ってわけではない。ただ、今はまだ可能性ばっかりで
まだ何も中身が伴っていない、空っぽの財布のような将来生活を抱えて湯治するしかない、
何も保証されていない生活である。そんなことを思う時、町を歩きながら、風呂に入りながら、
折に触れてこの歌を口ずさむのだ。『駅へ』の歌集前半から、何首か好きな歌を挙げる。

再びも三度も同じ旅ならばくるりくるりと無邪気な夕陽

逃げ回り続けた眼にはゆうやみの色がかなしいまでにやさしい

「まだ」と「もう」点滅している信号に走れ私の中の青春

ああ夜ごと胸の内なる古井戸にからんころんと落ちる小石よ

愛情であるならむしろガムテープよりもセロハンテープくらいの

本当に、愛情であるならセロハンテープくらいの方がいい、と思う。ガムテープくらいベッタリと
した愛情は、真綿で首を絞められる思いがする。他人と楽しむ時間は思いっきり楽しいのだけれど、
何か辛いことやうまく行かないことがあった時、あるいは一通り他人との楽しい時間が終わった時、
無性に私は一人になりたくなる。一人で空港の展望デッキから夜の滑走路を見ていたり(私は羽田空港の
展望デッキ「Bird's eye」が東京周辺で最も好きな場所なんですが)、あるいは夜の無人駅でひとり、
ベンチに寝袋を敷いて眠りにつく時に、やっと好きな自分自身に帰れる気がしてホッとするのだ。
ひとりの時間がなくなると、私は喉を締め上げられるような気持ちになる。寂しがり屋の反面、
結婚生活には向かないタイプだろうかと思ったりもする。

商業と工業激しく競り合って一点差にて商業が勝つ

特急に胸のあたりを通過されながらあなたの言葉を待った

もう怯えないで歩いて行けばいい結婚指輪を指でなぞりぬ

君の住む町の夜明けへ十二時間かけてフェリーで運ばれてゆく

随分と大きな夢であったのに言葉にすればこれっぽっちか

歌集後半になると結婚につながる恋の歌、そして結婚生活の歌が出てくるが、私は歌集後半の歌については
それほど共感も憧れも抱いているわけではない。自分自身の生活の実感とはかけ離れているから理解が
追いつかない、と言った方が正確だろう。歌集を読み進むと、著者は結婚してなおもしばらくは
(大分在住の頃に、京都在住の女性と結婚したようだ)別居生活を選んでいることが分かる。
子供が出来た現在は京都に移住したようであるが、20代の頃に追うともなく追っていた理想が
やがて現実生活の中に取り込まれていくのを見るようで、とても興味深い。

野田知祐のエッセイの中で、若き日のヨーロッパ旅行の時に、自分も若い頃は世界を放浪していた
と言うおじさんに言われた言葉を思い出す。松村正直にも、そして私自身にも当てはまると思うのだ。

「若い頃は一種の狂気のようなもの。思う存分に旅すればいい。ある年齢になれば、
自分の器にふさわしい場所、そして自分の器にふさわしい仕事に落ち着くものだ」

松村正直のホームページ「松村正直の短歌
| SHO | 短歌 | 00:59 | comments(2) | - |

コメント
西村さん

すっかり御無沙汰しています。西之原さんを交えて京都で食事をしたのは、何年前になりますか。このたびは『駅へ』を
取り上げていただき、ありがとうございます。コメントを書くのは初めてですが、この日記はちょくちょく読んでいるのですよ。

『駅へ』を繰り返し読み、『駅へ』の歌を口ずさんでいただいているとのこと、嬉しいです。そんなふうにしてもらえる歌は、本当に幸せだと思います。

僕の方は京都に暮らし始めて四年が過ぎ、以前とは生活も考え方も歌の作り方も、何もかも変りました。でも、今の自分があるのは、『駅へ』の頃の体験があるからで、それは今でも大事にしています。

お互いに短歌も人生も、これからですね。
また、いつかお会いしましょう!
| 松村正直 | 2005/08/29 1:54 AM |

松村さん、ようこそいらっしゃいました。
この日記をご覧頂いていたとは知りませんでした。ありがとうございます。

『駅へ』は黒瀬珂瀾から勧められて買ったのですが、勧めてくれた彼には
本当に感謝しています。この歌集を手に取ってから4年、まさか自分が
『駅へ』当時の松村さんと似たような生活をすることになるとは思っても
いませんでしたが(笑)。私も、これからどんな人生を歩むのでしょうね。

また、いつかお会いできる日が来ますことを楽しみにしています。
| 西村一人 | 2005/08/30 11:29 PM |

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